大樹の若手漁業者がサクラマス養殖の事業化に向けて挑戦中!

 大樹サクラマス養殖事業化研究会の取組み

大樹サクラマス養殖事業化研究会は、大樹漁業協同組合に所属する若手漁業者が2020年3月に設立した団体です。会長は高橋良典(たかはしよしのり)さん。北海道の漁業士制度の青年漁業士にも認定され、大樹の若手漁業者の中心的存在です。主要魚種のサケの不漁が続き地域水産業の元気がなくなっているなか、北海道東部太平洋の低水温海域の特徴をいかした養殖漁業に活路を見出そうと、2020年から3年計画で、「サクラマス養殖の事業化の可能性を調査研究する事業」を実施することになりました。

 ご当地サーモンとして、サケ・マス類の海での養殖は、全国のいくつかの地域ですでに行われていますが、水温が20℃を超えると死んでしまう魚が出てくるため、冬飼育・春出荷が一般的となっています。一方、現在養殖している大樹町内の漁港の水温は、夏でも20℃を超えることは年に数回で、夏飼育・冬出荷が可能ではないかと飼育試験を始めました。天然・養殖魚どちらも国内産のサケ・マス類の冬の出荷量はきわめて少なく、その時期に出荷することで商機を狙おうというものです。

  しかしながら、大樹の漁業者にとって、魚類養殖は初めての試み。まさに手探り状態からのスタートでした。研究機関からアドバイスを受けながら、令和2年度は、約360尾の試験飼育を行い、夏の高水温期も乗り越え順調に成長させることができました。秋の時化(しけ)では大部分の飼育魚がへい死するアクシデントはあったものの、初年度の調査研究目標としていた「大樹の海でサクラマスの夏飼育は可能」ということを実証できました。

 調査研究事業の2年目、令和3年度は、時化対策を講じたいけすを増設したうえで飼育数量を大幅に増やし、約2300尾ものサクラマスの稚魚を5月に投入しました。12月まで飼育し、1kgから2kgに成長した魚を漁協直営工場で加工し、ふるさと納税の返礼品として全国のみなさまにお届けし、その売上げを調査研究経費の一部に充てたいと考えていました。これまで、何度かの時化もなんとか乗り越え、毎日欠かさず餌やり・見回りを行い、養殖サクラマスのおいしさを多くの方に知ってもらえると心を躍らせていた矢先…

北海道東部太平洋沿岸で発生した赤潮の被害

 2021年9月下旬のある日、関係機関から赤潮の発生と注意喚起の一報。赤潮とは、プランクトンの異常増殖により海水が変色する現象です。魚介類を死なせ、過去には西日本など比較的暖かい水域での漁業・養殖業に大きな被害がありました。これまで大樹での赤潮被害の経験はなく、当初、実はそれほど心配していませんでした。他地域から定置網に入ったサケや施設で中間育成しているカレイ類の稚魚が死んでいるといった情報があり、サクラマスの養殖いけすを見に行ったところ、12尾のへい死を確認。翌日も大量に死んだ魚が浮いており、泳ぐ姿も見えないことから、網上げを行ったところ、約2000尾がへい死していました。
 あともう少しで出荷できるところまできていたのに。言葉も出ない。ただただ悔しい。あんなに大きく育っていたのに。(このとき体長30cmから40cm、体重800g程度)
 赤潮の恐ろしさを初めて知りました。低海水温域で赤潮なんて。プランクトンの種類は?原因は?今後も起こるのか?被害を防ぐことはできないのか?わからないことばかりでした。完全に想定外。
 結局、特定されたプランクトンは、「カレニア・セリフォルミス」という低海水温域でも発生する種で、国内では初確認とのこと。沿岸の海では10月14日現在も赤潮の状態が続いています。そして、原因究明には、しばらく時間がかかりそうです。また、具体的な被害防止策は、今のところないとのことでした。
 

 調査研究事業の3年目、令和4年度は、令和3年度に引き続き時化対策を講じ、赤潮対策も用意したうえで、約2000尾のサクラマスの稚魚を5月に投入しました。毎日の餌やりやいけすの手入れも行い、2度の中間測定でもこれまで以上に期待のできる成長を見せていたサクラマス。11月まで順調に生育し、「今年度こそ出荷できる!」と関係者全員が確信していました。
 ところが、出荷まであと数日という11月末頃…

時化により3度目の失敗

 調査研究事業の3年目は出荷直前にそのほとんどがへい死してしまう結果となりました。しかし、無事水揚げできたサクラマスで試食会を開催し、参加者からは「美味しい」の声が多数でした。

 

4年目は大型生簀導入

 当初予定していた3年計画の試験事業は終了しましたが、出荷目前までは順調に成長したサクラマスは、確かな手ごたえを感じました。また、試食会でも好評のサクラマスをこのまま諦めるなど、大樹の漁業者は絶対にしません。

 ということで、4年目の令和5年度は投入する種苗サイズを大きくし、更に大きな生簀の導入に踏み切りました!

 

 大型生簀設置の様子

過去にない猛暑による海水温の上昇

 6月の中間測定では順調といえる成長をみせていたものの、7月から9月にかけた猛暑により海水温は高くなり、20℃のボーダーラインを超えた日々が続いてしまいました。大きく成長したサクラマスが日に日にへい死していくなか、残されたサクラマスも高水温の影響か次々に成熟してしまいました。
 海水温が落ち着いてきた10月に2度目の中間測定を実施したものの、魚体の成長はほぼなく、そのほとんどが成熟してしまいました。未成熟のサクラマス254尾を大型生簀へ移動させ、残りは水揚げをすることに。水揚げしたサクラマスは平均700g以下と小さく、魚卵もバラ子状態でした。身は使えませんでしたが、加工品開発研究として醤油漬けいくらを試作しました。

 
 いくら醤油漬けの試作品

 12月に残りのサクラマスを水揚げしました。10月に大型生簀へ移動させたサクラマスは、最終的に87尾が水揚げとなり、成分分析や市場調査、加工品開発へ使用することになりました。過去3年に比べると様々な調査研究の実施はできましたが、最終目的である12月に生食商材として出荷するという目的達成には至りませんでした。

   
   大型生簀の水揚げの様子

 「諦めたくない!」挑戦を続ける決意

「正直、気持ちはくじけそう。でも、今、諦めたくない。」と高橋良典会長。「大樹には若い漁業者も育っている。自分たちの次の世代も漁業を続けられるようにしなければならない。ひとたび地元の漁業者が離れてしまえば、元のようには戻れなくなってしまう。天然魚が獲れない中、最後に残される『みち』が養殖。今からその『みち』を開かないと、未来はない。」と言い切ります。
 研究会として、今年度も生き残った試験魚で飼育を継続し、来年度も今と同規模で調査研究の実施を決めました。課題や心配なことは尽きませんが、たくさんの励ましの声を糧に頑張っていく決意とのことでした。
 大樹町としても、挑戦を続ける若手漁業者たちの取組みを支援していきます。全国のみなさまにも、ぜひ、この取組みを広く知っていただくとともに、温かい御支援を賜りますようお願い申し上げます。
  

 

北海道大樹産養殖サクラマスのPRポイント

--- 希少 ---

 サクラマスは春が旬の魚ですが、海洋での夏季飼育に成功したことから、流通量が極めて少ない、12月中旬から下旬にかけて新鮮な状態で出荷することができます。それによって、クリスマスのお料理や年末年始の宴席のお料理などの需要が期待できます。

--- 安全 ---

 人工飼料で育てるためアニサキスが寄生せず、冷凍しなくても、安全に生の刺身が食べられます。

--- 美味 ---

 なにより、サクラマスはサケの仲間で、サケ類のなかでも特に上品なおいしさと言われ、日本では古くからなじみ深い魚です。養殖なので、臭みを抑えられることが特徴のひとつで、サーモンの刺身が苦手な方にもきっとおいしいと感じてもらえるはずです。海外養殖サーモンとは別格です。